ちしきよく。

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崎山蒼志さんの"samidare~五月雨~"の歌詞を解釈した



あとで読む

いや、マジで衝撃ですわ。これ。

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ゴタクはいいんでとりあえず聴いてみてください。

いや、衝撃でしょ、これ。

 

シャブアスなんて呼ばれてる某悲劇の天才の歌詞を聴き続けてきた私が断言します(?)、崎山蒼志くん、間違いなく天才です。

 

よくダイヤも磨かなければ石のままだなんて言うじゃないですか。

いや、これ、なんだろう。石とかダイヤとかそんなんじゃなくて、もう原石なのに光りまくってます。

当然ながらこの大会もぶっちぎりの優勝。

15歳にしては頑張ったね、とかじゃなくて、ガチガチの天才やん、っていう。

 

いや、ほんとにすごいものを前にすると、人間の語彙ってなんて貧弱なんだろう、って思い知らされますね。

 

最初のギターの部分でもう何か違うんですが、やべえのは歌詞

その特徴的な歌い方と見事な技巧に隠されてしまいがちですが、歌詞解釈が好きな私にとってはむしろそこからが本番。

 

あの、これ書いたの、ほんとに中1なんですか……?

 

ということでさっそく解釈、勝手に始めます。

 

 

 

歌詞

裸足のまま来てしまったようだ
東から走る魔法の夜
虫のように小さくて
炎のように熱い


素晴らしき日々の途中 こびりつく不安定な夜に
全ての声の針を静かに泪で濡らすように
素晴らしき日々の途中 こびりつく不安定な意味で
美しい声の針を静かに泪で濡らして


意味のない僕らの救えないほどの傷から
泪のあとから 悪いことばで震える
黒くて静かななにげない会話に刺されて今は
痛いよ あなたが針に見えてしまって


冬 雪 ぬれて 溶ける
君と夜と春
走る君の汗が夏へ 急ぎ出す

 

急ぎ出す

 

(samidare~五月雨~ 崎山蒼志作詞作曲)

以上のように歌詞をセグメント化してみました。

だいたいの意味の途切れ目であるとともに歌もそこで途切れるからですね。

で、小節ごとにやっていきたいんですが、まずその前に。

 

目についた単語をピックアップしてみましょう。

まずは「魔法の夜」。第一節。

そして第二第三、繰り返される「針」と「泪」。

第四、「春」「冬」などの季節の表現。

 

これらが解釈のキーになっていることは、間違いないでしょう。

 

歌詞の大筋、テーマ

結論から言います。

この歌は「思春期特有の自意識過剰」と、「それを救ってくれる『あなた』」(=恋)の歌だと、解釈しました。

実際に見ていきますね。

 

第一節:意味不明な歌詞は他部分を修飾する?

裸足のまま来てしまったようだ
東から走る魔法の夜
虫のように小さくて
炎のように熱い

 

裸足のまま来た、という出だしはなかなか斬新、というわけでもありません。

というのもそもそも出だしの部分は*1多くの人が斬新にしようと心がけているからです。小説やラノベの1ページ目と同じですかね。

 

例えば、「急に別れ話を切り出される」とか、「寝覚めたら恋人が横にいる」とか、「そもそも例えが意味不明」とか。

 

最後に関してはチャゲアスの「青春の鼓動」ですかね。

それは戦闘機みたいな音に なってキーンと心が接近してた

ここだけ聞くともう、何言ってんだこいつ、ってなると思うんですよ。

 

裸足のまま来たという部分だけ読めば「家出かな?」「嫌なことが?」「嬉しかったのか?」いろんなことが想像できますね。一意的ではない。

 

その後ですよ、東から走る魔法の夜。方向表現来ました。

太陽は東からのぼり西に沈みます。夕暮れに明るいのは西のほうで、東のほうが暗くなります。つまり夜は東からやってきますね。

 

何が虫のように小さく、炎のように熱いのか、それは後述。

 

とりあえず一節目はあまり意味が分かりません。

 

 第二節:印象に残る「針」

素晴らしき日々の途中 こびりつく不安定な夜に
全ての声の針を静かに泪で濡らすように
素晴らしき日々の途中 こびりつく不安定な意味で
美しい声の針を静かに泪で濡らして

素晴らしき日々、つまり主人公にとっては今までの生活はよいものだったわけです。

しかしそれが、不安定によって崩されてしまった。不安定な夜。

 

夜と昼で言えば、夜のほうが不安定です。暗闇は人の心を惑わし、静寂は眠れる魂を呼び起こす。でもたぶん、そういうことじゃないんでしょう。

夜が不安定だから「不安定な夜」ではなく、何か嫌なことがあって、素晴らしき日々が崩れ去り、突如として不安定が支配するカオスの世界に巻き込まれた。

 

その感情が屈折した形で出てくるのが夜であり、また秩序のない闇の世界である夜と、それをかけています。

 

次が印象的。「全ての声の針を静かに泪で濡らすように」。

何があった。一体どうしたんだ。

 

針ということばはマイナスのイメージを持ちます。今までの秩序をつついて、パン!と破裂させてしまう、忌まわしい存在です。声の針、つまり「みんなの声の中に含まれる、とげとげとした感情」のことを言っています。

それに涙しているのです。

あ、涙と泪の違い。涙はもともと「さんずい」と「戻(レイ)」からなる形声文字で、泪は目から流れ出る液体をあらわす象形文字です。

 

あえて一般的でないほうを使い、泣いていることを強調しています。

こびりつく、というのは、嫌な記憶が脳内から離れない、忘れられないということでしょう。例えば、悪口を言われたとか、他人が誰かの悪口を言うのを聞いたとか。

 

素晴らしき日々の途中 こびりつく不安定な意味で
美しい声の針を静かに泪で濡らして

 

こちらもさっきと同じですが微妙に異なっています。

「夜に」が「意味で」になり、「全ての」ではなく「美しい」になっています。

 

不安定な意味、つまり、一通りに解釈できないということ。

美しい声、つまり、自分が恋をする人の声。

あばたもえくぼなんて言いますし、好きな人の声は何だって、いつも美しく聞こえるものです。

 

しかし主人公は今、不安定のさなかにいる。

全ての人の声に「針」(=悪意)を見出してしまう自意識の過剰さ(あるいは本当に嫌な出来事があったのかも)は、いずれ自分の恋人に対してまで、敵意として、嫌疑としてむけられてしまう。

 

自分の想い人のその美しい声にまで、自分に対する悪意を見出してしまうのです。

 

起承転結で言えば、この第二節は「転」といえるでしょうか。

 

第三節:ジレンマに挟まれた主人公の苦難

意味のない僕らの救えないほどの傷から
泪のあとから 悪いことばで震える
黒くて静かななにげない会話に刺されて今は
痛いよ あなたが針に見えてしまって

意味のない、と最初から否定にかかっている。これは珍しいことです。

普通、人間は自分の苦境を「意味のあるもの」であると考えたがりますが、この主人公は違う。最初から「僕ら」を意味なきものとしてしまっている。

 

健全な人間からはかけ離れた、厭世的でアイロニカル*2で自虐の入ったセリフですね。さりげなく入れてくるあたりが本当にうまい。

 

泪の後に「悪いことば」で震える。心がでしょうか、体がでしょうか。

何にせよ世の中にあふれかえる悪意、それが主人公の思い込みかどうかはともかく、悪意に対して、主人公は震えています。

 

黒くて静かななにげない会話に刺されて今は
痛いよ あなたが針に見えてしまって

ここも面白い。ふつう会話というのは騒がしいものです。なのに「静か」。

ここでは字義上の意味ではなく「裏で行われる」という意味でしょうね。

ことばあそびを多分に含んだ部分です。

 

和気あいあいとした雰囲気の裏に潜む悪意、それを孕みながら雑談は今日も淡々と繰り返される。でもそれが主人公には痛い。心が痛い。

自分が好きなあの人までも、自分の敵に見えてしまうから。

 

節全体から、何らかの焦燥感が伝わってきます。焦り。このままじゃいけない、あの人は敵じゃないんだ、針じゃないんだ。悪意を持っていないんだ。

だけどそれを了承するには、主人公は幼かった。

でも結局は全ての声に刺されるしかないわけですね。

 

第四節:天才的なことば選び

冬 雪 ぬれて 溶ける
君と夜と春
走る君の汗が夏へ 急ぎ出す

その次、普通ですよ、普通、例えば「君(恋人)がぼくのところにやってきて、僕を助けてくれた だから冬が春になった」って繋がると思いません?もしくは「結局だめだった」的な歌詞が来ると思うんです。

 

突然に、冬、雪、ぬれて、溶ける。

 

冬は厳しい季節。雪が積もっている。

大地全体が白銀の静寂に包まれ、呼吸すらも忘れているようです。

生物にとってはまさに地獄。

しかし雪が、濡れて、溶ける。

雪が解けました。苦難が去ったことを示します。

 

つまり、「君が僕を助けてくれた」という部分を一切表現することなく、この4単語のみでそれを暗示しているのです。ああそう、これが天才なんだな、って。

 

この部分が一番好きだ、というコメントが多かったのもうなずけます。

 

君と夜と春
走る君の汗が夏へ 急ぎ出す

厳しい季節は終わりました。君と夜と春。

もう針はなくなって、恋人のことを敵視してしまう、苦しいジレンマから解放された。それが春。不安定でなくなった夜と、それを助けてくれた(かもしれない)君。

 

この対比は非常に珍しいですね、普通「と」という助詞は、同列だとか同じ性質のものを結びますから。恐らくことば遊びも兼ねていて、「夜」(yoru)「春」(haru)そして「走る」(hashiru)と「る」で韻を踏んでいます。実用と技巧を兼ねているのが本当にすごい、中1作曲とは思えない。

 

さらに季節は進みます。

冬のままで止まっていた時間を動かしてくれた君、それを「走る」と表現し、汗という爽やかなことばで青春のイメージを持たせ、「夏」でそれを維持し*3、僕は次の季節に向けて急ぎ出す、という明るい終わり方になっています。

 

タイトルになっている「五月雨」はそんな明るさを想起させることばであり、もともとは雪だったであろう水が、五月雨になって降ってくる、というところからも、またいろいろな想像が膨らみますね。

 

私がさっき、

この歌は「思春期特有の自意識過剰」と、「それを救ってくれる『あなた』」(=恋)の歌

と形容したのは、そういうところにあるわけです。

 

第一節に戻ってみよう

さて、解釈を投げ捨てていた第一節に戻りましょう。

 

裸足のまま来てしまったようだ
東から走る魔法の夜
虫のように小さくて
炎のように熱い

 

裸足、というのは幼心ととりました。靴、自らを守ってくれる精神的な盾がないまま、自分が生きてきたことを示します。これが後の「すべての声が針に聞こえる」現象につながってしまうわけです。

 

で、「魔法の夜」は悪い魔法

自分の幼心を打ち砕き、いろんなものへの疑心暗鬼を助長させた、自意識過剰という魔法です。それが当然、主人公の、いや人間の成長には必要なのが、皮肉なところ。

 

この魔法は「小さく、しかし熱い」。裸足でかけて(幼心のまま生きてきて)いた主人公にとっては、針で刺される痛み、熱さを与えます。

 

第一節がつながり、ようやくすべての部分が完成しました。

 

結論:天才はいるものだ

何がすごいかって、この歌詞、一回聞いただけじゃ意味がわからないのに、何となくマイナスからプラスへの変化、焦りから爽やかさへの変化が、ちゃんと読み取れてしまうことです。

 

そういう意味では、時間軸が狂っていたのに感動できてしまう、あの「君の名は。」をほうふつとさせます。

 

作詞とは決して難解なことば遊びに興じることではない、また技巧に走ることでもない、自分たちと等身大の人間の営みを、みんなにわかりやすく、そしてエモーショナルに伝えることなのだ、という教訓を、身をもって強烈に示しているようです。

 

声変わりして不安定なその声も、この不安定な歌詞にはちょうどよく、少年から青年への変化、自己への内省や他者とのあつれきによる、幾重の脱皮を通じた成長、というテーマを、ちゃんと後押ししています。

 

とりあえず、私は、崎山蒼志さんのファンになりました。

皆さんもこれを機に、ぜひ解釈をしてみましょう。

 

 

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作詞を始めたいという人はもちろん、歌詞の解釈をしたいけどやり方が……みたいな人にも、強くお勧めです!

 

 

*1:最初にきいたとき一番印象に残るためか

*2:皮肉まみれ

*3:韻の範囲を広げると「夏」(natsu)で、ウ段の韻を引き続き踏んでいることになります